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医薬開発研究課 課長/毛髪診断士
長内 尚(おさない ひさし)
早稲田大学理工学部応用化学科および早稲田大学院先進理工学部応用化学研究科を卒業後、大手化粧品メーカーに入社。
2015年にアンファー株式会社に転職。
スカルプDをはじめアンファー商品全体の商品開発責任者として従事し、現在は新規事業企画部門責任者も兼務。
目次
「ミノキシジル使用中は献血できるか?」献血は気軽にできる社会貢献の1つ。しかし、一部の育毛剤の使用中は献血ができません。ここでは、 献血をする人と、輸血や血液製剤を使用する人の健康を守るための「採血基準」、ミノキシジルをはじめとした発毛剤・育毛剤の関係を解説します。
(このコラムのポイント)
唐突ですが、あなたは献血をしたことがありますか? 「注射が嫌いだから献血もしない」とか、「血を抜かれるなんて気持ち悪い」という方もいるかもしれません。逆に、いままでに何度もやったことがあるという方もいるでしょう。
ところで、「AGA治療をしていると献血ができない場合がある」って、知っていましたか?
どのようなAGA(男性型脱毛症)治療をしていると献血ができないのでしょうか? それはなぜなのでしょうか?
ミノキシジルを使用している場合は、献血ができるのでしょうか?
ミノキシジルやAGA(男性型脱毛症)治療薬と献血の関係について、正しい知識を身につけておきましょう。
血液は、人体に必要な酸素や栄養分・ホルモンや、不要になった炭酸ガスや老廃物を運ぶ働きをしています。
その血液は、3つの種類からなる「血球」と、「血漿(けっしょう)」に分けることができます。
ところで、献血はだれでもできるのでしょうか?
献血はだれでもできるものではなく、さまざまな基準をクリアした人しか献血できません。
まず、厚生労働省の定めた「採血基準」をクリアしないといけません。
この基準は、献血する人の健康保護のためのもので、1回の献血量や献血の頻度(間隔)や年間の回数、献血をする人の年齢・体重・血圧などが定められています。
たとえば、200mLの全血献血には、下記の条件があります。
また、献血をする場合には、「問診票」で、献血をする人の現在の健康状態や既往症・渡航歴・投薬状況などを確認します。
これは、献血をする人の健康を保護するとともに、輸血される方を感染症などから守るためです。
さて、その献血の問診票のなかに、次のような設問があります。
なんと、育毛薬(剤)を使用していると、献血ができないのですね!
AGA(男性型脱毛症)治療に関心のある方なら、「プロペシア」や「アボルブ」という薬の名前を耳にしたことも少なくないはず。しかし、なぜ、これらのAGA(男性型脱毛症)治療薬を服用していると献血できないのでしょうか? また、ここにはAGA(男性型脱毛症)治療薬「ミノキシジル」は書かれていませんが、ミノキシジルを使用している場合も、献血はできないのでしょうか?
(参照)
日赤による医療関係者向けの解説では、次のように書かれています。
※「アンチアンドロゲン系ホルモン剤」
アンドロゲン(男性ホルモン)がアンドロゲン受容体と結合するのを阻害する薬。抗アンドロゲン剤とも呼ばれる。
上記に書かれている医薬品「プロペシア・プロスカー」「アボダード・アボルブ」「フィンペシア・フィンカー等」、成分「dutasteride、finasteride」は、「アンチアンドロゲン系ホルモン剤」ではなく、「5α-還元酵素阻害薬」と呼ばれるもので、5α-還元酵素阻害薬の働きによって、男性ホルモンが変性するのを阻害する作用があります。
日本皮膚科学会が作成した「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン 2017年版」(※2)には、「ミノキシジルの外用(薬)」とともに「推奨度:A」のAGA(男性型脱毛症)治療法として、「デュタステリドの内服(薬)」と「フィナステリドの内服(薬)」が挙げられています。
このデュタステリドやフィナステリドを主成分とする薬には、テストステロンという男性ホルモンが、DHT(ジヒドロテストステロン)に変化するのを阻害する働きがあります。
そして、デュタステリドやフィナステリドを主成分とする薬には、副作用の1つとして妊婦に投与した場合、胎児の生殖器官の正常発達に影響をおよぼすおそれが報告されています。
つまり、デュタステリドやフィナステリドを主成分とするAGA(男性型脱毛症)治療薬を内服している人が献血をすると、その血液で造られた血液製剤にもそれらの成分が移行する可能性があります。
妊娠中の女性にも安心して輸血できるように、デュタステリドやフィナステリドを服用している人たちからは採血しないでおこう、ということです。
ちなみに「アボダート」と「アボルブ」は同じ製薬会社が製造・販売する、ほぼ同じ薬で、海外では「アボダート」、日本では「アボルブ」の名称で前立腺肥大症治療薬として承認されています。
同じ製薬会社が、男性型脱毛症治療薬として「ザガーロ」の名称で承認を受けた薬がありますが、じつはこれも成分はほとんど同じです(含有量が2種ありますが)。
製品名 | アボダート | アボルブ | ザガーロ |
---|---|---|---|
製薬会社名 | グラクソ・スミスクライン | グラクソ・スミスクライン | グラクソ・スミスクライン |
主成分 | デュタステリド | デュタステリド | デュタステリド |
含有量 | 0.5mg | 0.5mg | 0.1mg/0.5mg |
適応症 | 前立腺肥大症 | 前立腺肥大症 | 男性型脱毛症 |
厚労省承認 | 未承認 | 承認 | 承認 |
また、「プロスカー」は前立腺肥大症治療薬として海外で承認された薬で、日本で男性型脱毛症治療薬として承認されている「プロペシア」と同じ製薬会社が製造・販売しています。これらは主成分(フィナステリド)は同じですが、含有量に大きな違いがあります。
製品名 | プロスカー | プロペシア |
---|---|---|
製薬会社名 | メルク | MSD※ |
主成分 | フィナステリド | フィナステリド |
含有量 | 5mg | 0.2mg/1mg |
適応症 | 前立腺肥大症 | 男性型脱毛症 |
厚労省承認 | 未承認 | 未承認 |
※MSDはメルクの日本法人。
また、どちらの薬にも海外製の(日本では承認されていない)ジェネリック医薬品(後発医薬品)もありますが、いずれにしろデュタステリドやフィナステリドを主成分とする薬を服用している人は献血をすることはできません。
一方、ミノキシジルに関しては作用機序がまったく違うので、この献血に関する問診では除外されています。また、ミノキシジル外用薬だけではなく、塗り薬(外用薬)は種類に関係なく、とくに規制されてはいないようです(2018年7月現在)。
ただし、基準が変更される可能性もあるので、献血前の問診(面接)の時に、医師や看護師にミノキシジル外用薬(塗りミノ)を使用していることをきちんと伝えるべきでしょう。直接訪ねるのが恥ずかしい場合は、事前の電話などで問い合わせてもよいでしょう。
献血は、だれでもできる社会貢献の1つです。全国各地に血液センターや献血ルームなどがあり、わりと気軽に献血をすることができます。
もしかすると、あなたやあなたの家族が、事故や病気で輸血や血液製剤が必要になることがあるかもしれません。そんなときのために、一度献血について調べておいてはどうでしょうか。
(参考 日本赤十字社「献血をする」)
(※2 参照|日本皮膚科学会「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン 2017年版」)
AGA(男性型脱毛症)治療薬と献血の関係について、ご理解いただけたでしょうか。男性ホルモンに作用するデュタステリドやフィナステリドを使用している場合、献血はできません。
一方、ミノキシジル外用薬(塗りミノ)については、とくに規制はないようです。
薬は正しく使ってこそ、正しい効果が得られるものです。焦らず、慌てず、ミノキシジルと末永くつきあっていきましょう。
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医薬開発研究課 課長/毛髪診断士
長内 尚(おさない ひさし)
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